「金」の価格が高騰しています。
2019年は年間で約18%価格が上昇し、史上最高値圏まで来ています。これは、アメリカのFRBを始めとした世界の中央銀行が金融緩和を行っていることから、通貨そのものの価値が下がり、歴史的に安定資産であった金の価値が見直されているためとも言われています。
ですが、その金以上に価格が高騰している貴金属があることをご存じでしょうか。
それが「パラジウム」です。2019年はなんと年間で約49%価格が上昇しました。あまり聞きなれない貴金属であるパラジウムの価格がなぜ高いのでしょうか。理由は主に以下の3つにあるとされています。
(1)供給不足
(2)自動車排ガス規制
(3)投機筋の思惑買い
詳しく見ていきましょう。
目次
パラジウム概要
パラジウムとは?
パラジウムはプラチナと同じ貴金属の一種です。主に「自動車排ガス浄化触媒」に使用されます。何かと言うと、自動車から排出される有害なガスをできるだけきれに浄化してくる作用を持つということです。排気ガスはそのままだと一酸化炭素などの人や空気にとって良くない物質が含まれているのですが、パラジウムが付着した装置に通すことで、それらの物質をより無害なものに変換させることができるのです。
自動車排ガス浄化触媒以外ですと、宝石(ジュエリー)として使われるのが有名です。自動車産業需要が80%、宝石産業需要が1%程度になります。その他は医療・化学産業向けに使用されます。
パラジウムの価格
2019年8月以降急上昇し、特に2019年12月に入ってからは垂直的に価格が高騰しています。
パラジウム高騰の原因
供給不足
パラジウムの生産国は、主にロシアと南アフリカです。Statistaによると、この2ヵ国だけで世界全体の74%を占めており、供給元は極めて限定されています。
またその中でもロシアのエネルギー企業「ノリリスク・ニッケル社」だけで世界全体の約40%の生産量を担っていると言われています。ロシア政府は鉱山開発や設備投資を進めていますが、まだまだ旧ソ連の設備も多く生産能力には限界があるようです。
パラジウムは近年ずっと「需要>供給」の需要過多の状態が続いています。
(出典元:ジョンソン・マッセイ社)
貴金属触媒メーカー大手ジョンソン・マッセイ社によると、2018年の不足量は2万9千オンスでしたが、2019年は最大1,000万オンスの不足に陥ると予見していたほど深刻な供給不足でした。
自動車排ガス規制
ではなぜそんなに深刻な供給不足に陥るのかと言うと、供給が追いつかないほどパラジウムの需要が急拡大しているからです。
その最大の要因は、自動車排ガス規制の世界的強化です。特に欧州と中国が顕著です。
欧州は環境先進国として「ユーロ(0~6)」と呼ばれる自動車排ガス規制を課してきました。ユーロ0から始まり、数字が進むごとに順次規制が厳しくなってきており、現在はもっとも厳格な基準のユーロ6です。しかもEUはそこからさらに進んで2021年や2030年を目標に排ガスをより一層削減するルールを定めています。
欧州はもともとディーゼル車が中心でしたが、2014年にドイツの最大手自動車会社フォルクスワーゲン(VW)が排ガスの不正問題を起こしました。それ以降ディーゼル車が下火となり、一時的にガソリン車に回帰しました。その結果、ディーゼル車向けの排ガス浄化触媒として使用されたプラチナの価値が下がり、ガソリン車向けの排ガス触媒としてのパラジウムの価値が上がり始めたとされています。
また中国もPM2.5など深刻な大気汚染の影響で、環境重視の自動車政策に舵を切りました。欧州の「ユーロ」という排ガス基準と似たような「国」という排ガス基準を導入しており、現在は「国5」が適用されていますが、すでに2020年7月に実施予定のより厳格な「国6」を前倒しで進める自治体もあります。
中国はもともとEV(電気自動車)を普及させるため、大規模な補助金を打ち出してまで購入を支援してきましたが、政府の想定通り売れなかったため、EVと並行してハイブリッド車を認める方向です。それが世界最大の自動車市場である中国におけるパラジウムの需要増につながるのではないかと市場は見ているのです。
投機筋の思惑買い
今まで見てきた「供給不足」「自動車排ガス規制」を受けてパラジウムの価格は上がっていますが、将来的にさらに価格が上がることを見越して買っておくという投機筋の思惑買いも入ることになります。
以下は「アバディーン・スタンダード・フィジカル・パラジウム・シェアーズ」というニューヨークに上場するパラジウムの代表的なETFの純資産額の推移です。2019年の純資産額は急拡大しており、価格の上昇とともに投資家の資金流入も増えています。
そして、2019年夏以降、相場はメルトアップ(買うから上がる、上がるから買う)の様相を呈しています。
パラジウム投資の注意点
下落リスク
当然ですが、パラジウムには日々の価格変動リスクがあり、将来的には大きく下落する可能性もあります。
下落要因はたとえばプラチナの存在です。排ガス浄化触媒の貴金属としてプラチナも使われていますが、もともとはプラチナの価格が高騰していたためパラジウムが代替的に使われたという経緯があります。パラジウムの値段があまりに高くなると、今度はパラジウムが使用されず、プラチナありきのエンジン設計に戻るという流れが来る可能性もあります。
それからEV(電気自動車)の普及です。欧州や中国では政策的にEVを普及させようとしています。短い航続距離や電力の供給体制などEVの一般化にはまだまだハードルがありますが、消費者の意識が変わり、EVを購入することが当たり前の世の中になれば、残念ながらパラジウムの出番はなくなってしまいます。
パラジウム投資戦略
2020年1月現在、パラジウムはバブル相場の様相を呈するほど高騰しています。こういうときは、そろそろ天井を付けそうだということで、下落による利益を狙ってしまいがちですが、安易な空売り・ショートポジションは厳禁です。
相場の天井を正確に当てることは不可能だからです。むしろ、安易な空売りは大口機関による踏み上げの餌食となり、ショートカバーとしてむしろ価格上昇に貢献する結果となる恐れもあります。
そのため、メルトアップのような相場の過熱状態が落ち着くのを待つのも戦略だと思います。大きな値幅調整があった後にゆっくり買いを入れるか、誰が見ても明らかな下落トレンドのサインが出ているときに売りを検討するぐらいがちょど良いのです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
あまり聞きなれないパラジウムという貴金属の価格がなぜ高いのか見てきました。
価格上昇のチャンスに乗りたい場合、現物保有も一つの手ですが上場投資信託(ETF)などで投資することもできますので、チェックしてみてください。
ただし相場が過熱状態にあるときは、むやみに取引をするより時期を待ってから投資する方が良いことも多いので、冷静な目を持つことも忘れずにいましょう。